01


オレの隣に座り、夕飯を食べながら父さんとたわいない話をしている先輩をオレは半眼で見つめていた。

それに気付いた父さんが首を傾げてどうかしたのか?、と聞いてくる。

「ううん、何でもない」

それにオレは慌てて首を横に振りご飯を口に運んだ。






夕食をとり終えたオレはソファーに移動し、テレビを見始めた先輩の横に座ると伺うように口を開いた。

「オ、ニイチャン。アレ返してよ」

「駄目だ」

アレとは言わずもがな魔術部の後輩に頼んで作って貰った惚れ薬のことだ。

三日かけて作って貰ったそれを今日の夕飯にこっそり混ぜて先輩に食べさせようと思ったら見付かってしまい没収されてしまったのだ。

なんたる不覚。

もうちょっとだったのに…。

「お前さ、本当にアレを使う気だったのか?」

先輩はテレビを見たままこちらも向かずに聞いてくる。

オレはその問いにもちろん、と答えて先輩の腕に自分の腕を絡めてくっついた。

先輩はテレビ画面からオレに視線を移すとやや呆れた声音で言ってきた。

「……俺を殺す気か?あんな濁った泥水みたいな液体使って。変な草みたいのも浮いてたし」

「まさか。オレはただせん…オニイチャンに好きに…」

「あぁ、はいはい」

オレの言葉はいきなり先輩に遮られた。なぜって思ったら聞くよりも先に背後から声が掛けられた。

「こうして見ると本当の兄弟のようだ。って、もう兄弟なんだな」

「そうよ、あなた。何言ってるの」

「父さん…」

洗い物をすませた母さんと、その手伝いをしていた父さんがソファーに座るオレ達の方にやってきたのだ。

「ははは、そうだな。でも二人とも仲良くなったみたいで安心したよ」

父さんはオレの頭を撫でて笑って言う。

「そうね、私も安心したわ。やっぱ二人とも年頃だし、一悶着あるかと思ったけど大丈夫そうね」

父さんとにこやかに笑う母さんにオレは先輩にくっついたまま口を開いた。

「大丈夫だよ。オレ、格好良いオニイチャンが出来て嬉しいからv」

オレがぎゅっと先輩の腕を握れば先輩はオレの頭に手を乗せて笑った。

「俺も可愛いオトウトが出来て嬉しいぜ」

うっ。その笑顔は反則だよ…。

赤くなりそうになった顔を先輩の腕に押し付けてオレは下を向く。

「そうか、よかったな」

父さんは俺の頭に乗せていた手で俺の頭をポンポンと軽く叩いた。

しばらく家族四人で団らんした後、先輩がもう部屋に上がると言ったのでオレもその後をついて二階に上がった。









その日結局先輩から惚れ薬を取り返せなかったオレは翌日、五時間目をサボって先輩より早く家に帰り、悪いとは思ったが先輩の部屋の中を探してみた。

まずは机の引き出しを順に開けて瓶を探す。

「ん〜、無いなぁ」

次にクローゼット。

「ここにも無い…」

ベットの下を覗いても何も見付からないし。

「もしかして持ち歩いてるのかなぁ…」

「何を?」

「何って惚れ薬に決まって…って、オニイチャン!!」

何時の間に帰ってきたのか先輩は部屋の入り口に鞄片手に立っていた。

「まぁ、お前のことだから探すだろうとは思ったけど学校をサボってまで探すなよ」

先輩は鞄を机の上に置くと制服の上着を脱いでベットに腰かける。

「だって…」

と言いながらも、オレは何気無い先輩のその行動に格好良い〜と見惚れてしまった。

「それに、部屋を探してもアレはもう何処にも無いぞ」

「えっ!?捨てちゃったの!!」

そんなぁ、と嘆くオレに先輩はニヤリと格好良く笑って更にオレを慌てさせる発言をした。

「違う。使った」

「え、えぇぇぇ〜〜〜!?」

そんなっ!?使ったって誰に!?

先輩好きな人いたの!?

その人に使ったの!?

どうして!?何で!?

「うぅ〜〜、オニ…イチャン好きな人いたの?」

じっとオレは瞳に涙を溜めて先輩の言葉を待った。

じっと待つオレに先輩は窓の外に視線を移してフッと笑った。

「いねぇよ。使ったのは俺の友達」

「……はぁ〜、なんだ、そっか良かった」

良かった。先輩が使ったんじゃないのか。

本当良かった。

でも、そうか。また惚れ薬を作って貰っても先輩に取り上げられて、先輩が使っちゃったらオシマイだ。

「次の手を考えなくちゃ…」

ぼそりと呟いた声が聞こえたのか先輩はオレにこう釘をさした。

「次また変な薬持ってきてみろ、お前のこと嫌いになるからな」

「うっ……、わかった」

嫌われちゃ意味無いんだ。

好きになって欲しいんだから。

オレは先輩の言葉に頷いて次の計画を立てるべく部屋を出ていった。







side アニ

部屋を出ていったオトウトの後ろ姿を見送り俺は盛大な溜め息を吐いた。

実際アイツに言った通り惚れ薬はそれとなく誤魔化して友人に渡した。

しかし、何を思ったのか友人は面白半分にそれを使ってしまったのだ。

しかも男相手に…。

その時の事を思い出して俺は頭を抱えたくなった。

「本物だったとはな…」

オトウトには釘をさしておいたからもう大丈夫だとは思うが、俺は明日も学校だと思うと気が重くなった。




END


[ 8 ]

[*prev] [next#]
[top]



- ナノ -